結局メタバースってなに? ~ Facebook改めMeta社やマイクロソフトは何をしようとしているのか
はじめに
あのテックジャイアントの一角であるFacebook社がMeta社に社名変更を先日のConnectにて発表しました。社名変更自体はInstagramなど参加の企業が増えてきたので階層を整理したい、とか風評的に逆風の真っただ中なので印象を変えたいとか色々あるのだと思いますが、その上でGoolgeのAlphabetのように無難な名前では無く 「Meta」 という社名を付けたことにはメタバースを推進する強いメッセージ性があると思います。また、マイクロソフトもMicrosoft Cloud at Ignite 2021でMesh for Microsoft Teamsなどメタバース事業を改めて強調しました。
さて、この「Metaverse (メタバース)」 とはなんでしょうか? 実は「Metaverse (メタバース)」 という言葉は様々な意味を含み、かつMeta社は結構限定的というか狭義の 「Metaverse (メタバース)」 に関して話ています。なので、結局何するの? VRChatやあるいはFortenaiteみたいなの作るの? セカンドライフ? と言う感じでイマイチイメージと合わない人も多いと思うので、今回はそのあたりを解説したいと思います。
Meta社周りとしてこちらで10分ちょっとの動画で話しているのですが、今回は少しそれを補足する形の記事になります。 www.youtube.com
注意事項
私はMeta社やマイクロソフトの社員ではないので、公式の見解とは一部異なる可能性があります。ご注意ください。
メタバースは既にゲームが実現している? 広義のメタバースと狭義のメタバース
Metaverseとは何でしょうか? まずはWikipediaで確認してみましょう。
メタバース 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 ナビゲーションに移動検索に移動 メタバース、メタヴァース (英: Metaverse) は、SF作家・ニール・スティーヴンスンによる1992年の著作『スノウ・クラッシュ』の作中で登場するインターネット上の仮想世界のこと。転じて、将来におけるインターネット環境が到達するであろうコンセプトモデル[要曖昧さ回避]や、仮想空間サービスの通称としても用いられる。メタ (meta-) とユニバース (universe) の合成語。
メタバースに関連した概念として、仮想空間サービス(アバターチャット)・バーチャルリアリティやサイバースペースがある。
引用: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B9
元々、SFの作中に登場した言葉で、インターネットや コンピュータの仮想世界的なもの です。攻殻機動隊やマトリックス、楽園追放とかSAOとかSFやアニメでおなじみの電脳世界ですね。転じて、実際の仮想空間サービスの通称として使われます。SF的なイメージだと3Dの印象が強いですが実際のところ2Dでも3Dでも、VRであってもなくても 「アバター」 「オープンワールド」 「ソーシャル」 という3つが合わさると 「メタバースである」 と言われます。なので、有名なメタバースの事例としては結構、ゲームが先行していてどうぶつの森やFF14、そしてゲーム内でコンサートまで開かれているFortnite(フォートナイト)は 「メタバース的」 と良く呼ばれる作品です。他にもRbroxやマインクラフトのようなワールド作成系も多いです。ゲーム以外にも、セカンドライフのようにゲームと言うよりは純粋にメタバース的なものを目指したクラフト系のオープンワールドもあります。
もちろん、VRヘッドセットを付けてバーチャルの世界にどっぷりとつかるVR ChatやバーチャルキャストのようなVR SNSもこうした 「広義のメタバース」 に分類できます。
では、「狭義のメタバース」 とはなにか? 今のところその定義は「おまんなかではな」という感じで固まったものは無い印象ですが、今回はFacebook改めMeta社の説明しているものをベースにします。多くの人が広義のメタバースに対して限定して話す時のニュアンスと近い気がするのと、良くも悪くも大企業として影響を与えると思いますので。
狭義のメタバースはVRやMR/ARを使って単なるディスプレイよりもずっとリッチな体験を提供します。まだ見たこともない世界中のどこにだって行くことが出来るし、異世界にだって行ける。海の底でサメを見たり恐竜に出会ったりも出来ます。VRはSFと違い五感の全てをハックできておらず、視覚と聴覚程度なのですが実際に付けると分かりますがそれでもかなりの没入感があります。良くできたVR世界を歩くのは普通に 「観光として」 楽しいものです。他にも遠隔に居る人が実際に目の前に居るように話たり共同作業が出来ます。まるでテレポーテーションみたいですね!
しかし、これだけでは 「狭義のメタバース」 とは言えません。最も重要な事はそれが オープン であること。単独のクローズドなプラットフォームでは無く、複数の異なるプラットフォーム同士が接続し 相互に運用 出来る事。これこそが 「狭義のメタバース」 の中核です。Meta社の最終ゴールはこちらのメタバースです。Interoperability/(相互運用性) というのは普段使わない言葉なので少し分かりづらいかもしれませんが、同じアバターで複数のゲームやアプリをそのまま利用できる、アイテムなども持って移動できる、ゲームやVR SNS同士が繋がっている、などでしょうか? ソードアートオンラインのザ・シードが一番イメージに近いと思います。
テレポーテーションとInteroperability(相互運用性)
ConnectのキーノートではこのテレポーテーションとInteroperabilityを多用して説明していたと思います。この部分をもう少し深堀しましょう。
Metaverseでのテレポート
物理的な場所に依存せずに同じ場所に
MetaverseではZoomなどのようなテレビ会議よりもずっとリアルに 本人が目の前に居る という体験を提供できます。これはバーチャルな世界にアバターを作るVRでも、リアルな世界にアバターを重ねるAR/MRでも変わりません。また 「単に会って話をする」 というだけでは無く、 ホワイトボード や スポーツで使う道具(ラケットやボール等) も 3Dモデルとしてメタバース上に構築 する事で遥かにインタラクティブなコミュニケーションを行う事が出来ます。これによって現実と同等以上の体験をリモートでも実現できます。特に建築や車などをまず3Dモデルで作ってそれを実際に見る、という方向性は以前より注目されている分野の一つです。
簡単にはいけない場所に
- 宇宙空間や歴史上の世界を実際に体験
- VRの中でしか存在出来ない空間に
VRやAR/MRであれば実際に行けない場所、出会えないものに、に簡単にあったり触れたりする事が出来ます。ゲームの世界だってあり得ない場所ですよね? こういったところに簡単にいくことで、例えば教育面では資料集などの写真を眺めるのではなく実際の土星を近くでみたり, 古代ローマの世界を体験したりと、今までと違った切り口での教育をする事が出来ます。日本だとN高のVR学習がこうした試みですよね。コンサートやスポーツ観戦も今後のキラーコンテンツになっていくと思います。
ref: https://www.youtube.com/watch?v=0H5mb1KEDBw
MetaverseでのInteroperability/相互運用性
ここまで説明したテレポーテーション はとても魅力的な特徴ですが、これはVRやAR/MRが持つ特性でありこれだけでは狭義のメタバースにはなりえません。最も重要なのはオープンであることです。
既に述べた特徴はそれ専用のVRアプリやMRアプリを開発すれば事足りる事ですし、実際多くの企業が開発/提供をしています。別世界を体験できるVRゲームだってたくさんあります。メタバースとして重要なのはこれらが繋がっている事です。例えば、VR ChatからビートセイバーやPOPULATION: ONEにシームレスに移動できたり、バーチャルキャストなど別なVR SNSに行けたり出来る事です。その際に、単なるランチャーでは無く同じアバターで同一人物として行くことが重要です。アイテムだって持ちまわせたりした方が良いですよね。
VR ChatはVR Chatのワールドとして様々なゲームを作り同じアバターで体験できます。バーチャルキャストはVCIという形でアイテムを別なルームやスタジオに持っていくことで、更なるポータビリティを実現していますが、それをVR ChatやClusterに持ち込むことは出来ません。狭義のメタバースで求められるのはそういったプラットフォームをまたいでの相互運用になります。今のところ一番近いのはVRMじゃないでしょうか?
VRMはバーチャルキャスト社が中心になって作っている人型アバターのための標準規格です。国内の多くのゲームやVR SNSがVRMに対応しているため、VRMを介して同じアバターで別なゲームやVR SNSに行く、ということを煩雑ではありますが限定的に実現できています。
バーチャルキャストのThe Seed OnlineやPixivのVRoid Hub、DMMのDMM VR ConnectなどVRMを共有しゲーム内にシームレスに取り込むプラットフォームもあります。残念ながら各社間での連携は実現されていないのですが。。。VRoid HubやDMM VR ConnectはSDKもあるので、こちらを自分のゲームやアプリに組込めば独自でアップローダ的なものを作る必要は無さそうです。この辺がまとまったり、グローバルでも存在感が出ると国内からMetavaseのキーテクノロジーがでるかもしれません。
話を戻しますが、こうした一社のプラットフォームでは実現できない事がメタバースなので「どこかの一社が作る」というのは現実的な話ではありません。Meta社のHorizonシリーズもMetavaseを実現するための重要なキーだと考えていると思いますが、彼れも自分たちだけで出来るものと言ってるわけではないのです。
インターネットがそうであったように、こうした相互運用が可能なAPIや仕様の策定、およびコミュニティの育成がメタバースの実現には不可欠です。
メタバースはディストピアの悪夢? VR vs MR
こんなメタバースですが、ディストピアへの第一歩だと警鐘を鳴らす企業もあります。ポケモンGoでおなじみのNianticです。
曰く、仮想世界にどっぷりつかるのではなく、外を歩き、周囲の人々や世界とつながることを奨励する、とのことです。実はこれと似たような事って良く言われますよね。ゲーム、特に没入性の高いVR SNSなんかだと、現実世界に帰ってこれない&ないがしろにしてしまうんじゃないか、と。 もっと人と会ってリアルなコミュニケーションを大切にしろ 云々かんぬん。仮想世界の自分は 「違う自分」 なのか? とか、そもそも 「ネットだってリアル」 なんだが、とかいろんな議論を巻き起こしそうな話題ですよね。
ことの賛否はさておきとして、Meta社の考えるメタバースは仮想世界に引きこもるものではありません。いくつかの例を示した中にある通りですが、むしろAR/MR的な現実に仮想世界を重ねる試みを中心に考えています。もちろんVRを否定しているわけでは全くないですが、車の両輪でありVRに完全にどっぷりつかる、というよりも現実の延長としてVRが適した場面ではVRを使う、という感じですね。
このようにMeta社のメタバースはVRに限定されていません。むしろ、MSはもちろん、Meta社もMR的なものを強く意識しており、多くのコンセプトデモがMR的なものになっています。彼ら自身はVRデバイスしかまだ販売してないのに。そして、MRとVRを統合することは一つ重要な問題を呼び込みます。アバターが 「仮想世界で全く違う自分を演じる」 というより「仮想世界での自分の装い」 という側面が強くなるという事です。
もちろん彼らはアバターの多様性を否定しません。リアルアバターも良いですし、アニメ調したアバターも問題ありません。ロボットのような全然違う自分になるのもOK。ただ 「別人ではない」 というのがMeta社のスタンスでしょう。本名を使うかとかはさておきとしてMRとVRをシームレスに統合しようとすると現実と仮想世界が別人だと困りますからね。これはそもそもMRの技術から始めているマイクロソフトのMeshもそうですし、警鐘を鳴らしたNianticのLightship もMRだからそうですね。また、あの 人の目レベルの超高解像度 を謳うVarjo(ヴァルヨ)が開発するVarjo Reality Cloudも超リアルアバターを想定しているので、現実を仮想世界に持ち込む想定でしょう。 www.moguravr.com
ロールプレイをあえて否定するわけではないと思いますが、その中心はあくまで現実の自分と仮想世界での装いなのだと思います。現状のVR ChatなどVR SNSはむしろリアルと仮想を切り離す方向が少なくとも日本では主流に見えるので、ここらはメタバースを進めようとしてる企業との大きな歪みになるかもですね。まあ、VR SNSで 「別人」 をしてる人は存外少ないのかもですが。ちょっと見た目の性別が違うだけで。
未だ不明瞭な両者のオープン性
単純に、まだ 「その段階にない」 というだけだと思いますが、現時点ではMeta社のHorizonもMicrosoftのMeshも 「単なるクローズドなプラットフォーム」 の域を超えていません。 次世代のインターネットになるためには 「単なるクローズドなプラットフォーム」 を超えた 「オープンなMetavase」として、すでに述べた相互運用の仕組みを作らなければなりません。
メタバースをインターネット的なものと捉えるなら以下のようなものが必要でしょう。
- デバイス:インターネットのPCに相当。AR/VRのデバイスがより高性能でコンパクト
- API仕様:HTTPやHTMLに相当する仕様。オープンで標準化されている必要がある
- ビューア:HTMLのブラウザに相当するもの
- コンテンツ:APIを使って実装されたコンテンツ
- コミュニティ:利用者と開発者のコミュニティ
デバイス、特にMRデバイスがまだまだ性能不足なのでそこの強化が必須なのは当然として、それ以外の部分は未だ各社の中に閉じてすべてを一体のアプリとして作っている状態です。特性の近いVR SNS同士はさておきとして、ゲームとの相互運用をどうするかは非常に難しいです。各社が適用するAPIの上でゲームを作るのか、それとも橋渡しをするだけのAPIになるのか。アバターも例えばマイクラフトのような世界観にリアルアバターが突然現れるとおかしいので、デフォルメしてコンバートするような機能も必要でしょう。逆もしかりです。まあ、プラットフォーム毎の 「ドレスコード」 を決める事でも解決できるかもしれないですね。こうした、様々な事を行っていく必要がありますが、現時点では標準規格を決める以前に出来る事を増やすってのが各プラットフォームの状況だと思います。
どこまでオープンなのか? という課題もあります。アダルトコンテンツやアングラも含めたインターネットのような真にフラットなプラットフォームの上に各社の仕組みを作るのが理想的には思えます。しかしながら、今更フェイクニュースやスパムのあふれる世界を新規に構築したいでしょうか? ある程度のプライバシーやセキュリティは現代なら基盤自体に組込んでおきたくなる気がします。そうすると、ゆるやかな集権としてかつてのパソコン通信のようにプラットフォーム間での接続方式が取られるのではないかと妄想しています。つまりMeshとHorizonとVarjo Reality CloudとLightshipが相互接続されて、シームレスに行き来が出来るということですね。当然、アバターやアイテムも持ち越さないといけないので、その仕様を標準化する必要はあるのだと思います。まあ異なるゲーム間の接続とかVR SNSとゲームの接続に比べれば比較的マシな作業かもしれません。TSOやVRoidHubが天下を取ると面白いのですが...
いずれにしても膨大な作業なので、正直Metavaseというのはあと数年で実現するような近いゴールではありません。10年、20年で考えるような事へのチャレンジだと思っています。もちろん、過程の段階でも段階的に便利になっていくわけですが。
まとめ
FacebookがMeta社になりメタバースの推進を改めて宣言したり、それに便乗?する形で元々作っていたマイクロソフトもMeshをアピールしたりと、Metavaseの実現へ大資本が動きだし世間の目も変わってくるのではないかと思います。個人的には非常にワクワクする流れですが、メタバースという言葉の意味は広いのでMeta社や多くのXRリーディング企業の考えるMetavaseに関して自分の理解でまとめてみました。特にVRとして独立した仮想空間を作るというよりもVRかAR/MRかに関わらず、現実の拡張としてのメタバースを指向されているというのは大きなトレンドだと思います。この数年でいきなり完成するものではないですが、今後どうなっていくかとても楽しみですね!
また、この記事はMeta社の発表をベースに彼らが目指しているオープンな狭義のメタバースの話をしていますがそうじゃないものに価値が無い と言う話では無いのでよろしくお願いいたします。
それでは、Happy Hacking!